「数学の美しさ」と聞いて、あなたは何を思い浮かべるでしょうか?ピタゴラスの定理や円周率など、親しみのある数式が浮かぶかもしれません。
今回は『フェルマーの最終定理』について、証明とその深い歴史を紹介します。
この定理は、17世紀の数学者ピエール・ド・フェルマーによって提唱されましたが、彼は「驚くべき証明」を発見したと書き残し、その詳細を明かさずにこの世を去りました。
フェルマーの最終定理は、高度な数学の内容が含まれますが、なるべく初心者にもわかりやすいようにまとめました。
難しい内容は適度に飛ばしながら、興味のあるところを楽しんで読み進めてもらえればと思います。
1.そもそもフェルマーってどんな人?
ピエール・ド・フェルマー(Pierre de Fermat, 1607-1665)は、フランスの数学者で、数論や確率論、解析幾何学の発展に大きな貢献をした人物です。
彼は職業的には法律家であり、生涯を通じて地方の裁判官として働いていましたが、余暇に数学を楽しんでいた「アマチュア数学者」としても知られています。
しかし、その功績は非常に大きく、現代数学における基盤の多くが彼の研究から生まれました。
『フェルマーの人生と功績・フェルマーによる定理』については、別の記事にまとめました。
ピエール・ド・フェルマーは、17世紀フランスの数学者でありながら、職業は法律家という異色の天才です。 数学を趣味として研究しながらも「解析幾何学、数論、確率論」など、後世に多大な影響を与える数々の業績を残しました。 今回は『天才数学者フェル[…]
2.「フェルマーの最終定理」
『フェルマーの最終定理』は、数論の世界で非常に有名な定理です。
この定理は、17世紀のフランスの数学者ピエール・ド・フェルマーによって提唱されました。
フェルマーの最終定理の簡単な例
n=3の場合を考えてみましょう。
x^3 + y^3 = z^3
x = 1、y = 2、z = 3 として試してみても、1^3 + 2^3 は 3^3 にはならず、8 ≠ 27 です。
フェルマーの最終定理は、このようにどんな整数でも成り立たないことを証明しています。
ピタゴラスの定理(n=2の場合)
n=2の場合についてはすでに証明されていて、これはピタゴラスの定理(三平方の定理)と言われています。
x^2+y^2=z^2
これについて成り立つことは、中学数学の教科書で確認できます。
フェルマーの最終定理は、nが3以上の場合ではどんな自然数でも成り立たないという主張です。
3.フェルマーの最終定理の証明の歴史
フェルマーは、最終定理をディオファントスの『算術』という本の余白に記し、「私はこの問題の驚くべき証明を発見したが、ここに書くには余白が狭すぎる」と付け加えました。
これにより、フェルマーの最終定理は長い間「証明ができないのではないか」と思われ、数学者たちにとって最大の挑戦の一つとなりました。
フェルマーの最終定理の特定のに関する証明については、歴史的に多くの数学者が個別に取り組んできました。
3.1.n=4の場合: ピエール・ド・フェルマー (Pierre de Fermat)
実は、n=4の場合は、フェルマー自身が証明を残しています。
彼は、n=4の場合の特殊なケースについては証明を行い、これは現代でもディセンディング・チェイン (降下法) として知られている手法に基づいています。
フェルマーはこの手法を用いて、フェルマーの方程式x^4+y^4=z^4に解がないことを証明しました。
この証明については、『ヨビノリのYouTubeチャンネル』でわかりやすく説明されています。
このn=4の場合の証明は、フェルマーが直接証明した数少ないケースの一つであり、彼が提示した全体の最終定理への一般的な証明にはなっていませんが、非常に重要な成果として認められています。
3.2.n=3の場合: レオンハルト・オイラー (Leonhard Euler)
18世紀の数学者レオンハルト・オイラーが「n=3の場合にフェルマーの最終定理が成り立つ」ことを証明しました。オイラーの証明は当時の数論の知識に基づいており、1770年頃に発表されました。
オイラーの証明のアプローチは、フェルマーの方程式x^3+y^3=z^3を解が存在しないことを示すもので、特に整数の因数分解の性質を使った手法が用いられました。
3.3.n=5 の場合: ディリクレ (Johann Dirichlet) とルジャンドル (Adrien-Marie Legendre)
19世紀に入り、フェルマーの最終定理のn=5の場合の証明が達成されました。これには主に2人の数学者が関わっています。
・ヨハン・ディリクレ (Johann Peter Gustav Lejeune Dirichlet)
ドイツの数学者ディリクレは、フェルマーの最終定理のn=5の場合の証明を行いました。彼の証明は、数論の分野における新しい技術や手法を用いており、当時の数学界に大きな影響を与えました。
・アドリアン=マリー・ルジャンドル (Adrien-Marie Legendre)
フランスの数学者ルジャンドルもほぼ同時期にn=5の場合の証明を発表しました。彼のアプローチも、ディリクレのものと非常に似ており、二人は独立に の場合の証明に成功したとされています。
19世紀: エルンスト・クンマーの理想数と進展
19世紀の後半、ドイツの数学者エルンスト・クンマーがフェルマーの最終定理の解決に向けて重要な進展を遂げました。
彼は、理想数という新しい数学的概念を導入し、特定の種々の素数に対してフェルマーの定理が成り立つことを証明しました。
クンマーの理想数は後の数論の発展に大きな影響を与えましたが、全ての に対する証明には至りませんでした。クンマーの成果は、代数的整数論という分野の基礎を築き、フェルマーの最終定理への数学的アプローチをさらに深化させました。
20世紀後半: 谷山・志村予想とフライの予想
1950年代に、フェルマーの最終定理の証明に向けて新たな希望が見えてきました。それが谷山・志村予想です。
谷山豊と志村五郎の予想 (1950年代)
日本の数学者谷山豊と志村五郎によって提唱されたこの予想は、すべての楕円曲線がモジュラー形式に対応するというものでした。これが後にフェルマーの最終定理の証明に繋がる鍵となりました。
ゲルハルト・フライのアイデア (1980年代)
ドイツの数学者ゲルハルト・フライは、フェルマーの方程式に解が存在すると仮定すると、その解に対応する特定の楕円曲線が「モジュラー」でないことを示しました。これは、谷山・志村予想が正しいならフェルマーの最終定理も正しいことを示唆していました。
ケン・リベットの貢献 (1986年)
アメリカの数学者ケン・リベットは、フライのアイデアを厳密に証明し、「フェルマーの最終定理が偽であるならば、谷山・志村予想も偽である」という論理的結論に到達しました。
この結果、問題は谷山・志村予想の証明へと移り、フェルマーの最終定理が証明される可能性が高まりました。
1993–1994年: アンドリュー・ワイルズの証明
最終的にフェルマーの最終定理の証明に成功したのが、イギリスの数学者アンドリュー・ワイルズです。
ワイルズは10代の頃からフェルマーの最終定理に魅了され、1990年代初頭にこの問題に秘密裏に取り組むことを決意しました。
彼は約7年間、他の数学者たちに知られることなく証明に挑み、1993年にプリンストン大学で開催された講演でついに証明を発表しました。
1993年の発表後、証明に小さな欠陥が見つかりましたが、ワイルズは弟子のリチャード・テイラーと共にその問題を修正し、1994年に完全な証明を完成させました。
ワイルズの証明は、数学界に大きな感動を与え、彼はその業績により様々な賞を受賞しました。
ワイルズは1998年に特別な栄誉としてフィールズ賞を、2016年には数学界最高の栄誉であるアーベル賞を受賞しました。
4.フェルマーの最終定理の証明方法(アンドリュー・ワイルズ)
『フェルマーの最終定理』のアンドリュー・ワイルズの証明について詳しく紹介します。
アンドリュー・ワイルズは直接フェルマーの方程式を扱うものではなく、より深い数論の概念を使って間接的に証明するアプローチを取っています。
特に「楕円曲線」と「モジュラー形式」との関係に焦点を当てた谷山・志村予想が、ワイルズの証明の中心です。
4.1.楕円曲線とフェルマーの方程式の関係
まず、楕円曲線とは次のような形の方程式で定義される代数曲線です。
y^2=x^3+ax+b(aとbは定数)
楕円曲線は整数解や有理数解を持つ場合があり、その性質は数論において非常に重要な役割を果たします。
楕円曲線は、もともと数論のさまざまな問題を研究するために使われていましたが、フェルマーの最終定理との関係が明らかになったのは20世紀後半のことです。
フェルマーの最終定理の証明方法:
1. 楕円曲線とフェルマーの方程式の関係を利用し、楕円曲線に関する性質からフェルマーの最終定理の証明を導き出す。
2. 谷山・志村予想を証明することで、フェルマーの方程式に解が存在しないことを示す。
3. 高度な代数的手法(リブレーター法やガロア表現など)を駆使して、フェルマーの最終定理を証明した。
フェルマーの最終定理が示している方程式:
これ自体は楕円曲線とは関係がないように見えます。しかし、ワイルズは、フェルマーの方程式が「もし解が存在するなら、それは特殊な楕円曲線に関連するはずだ」という考え方に基づいています。
「フェルマーの方程式の解が存在すれば、対応する楕円曲線があるはずだ」という関係が、フェルマーの最終定理と楕円曲線の間にあります。
この「対応する楕円曲線」が、モジュラー形式に変換可能かどうかを調べることで、フェルマーの最終定理を間接的に証明する道筋が見えてきます。
4.2. 谷山・志村予想とその役割
谷山・志村予想とは?
谷山・志村予想(現在では「モジュラー性定理」として知られています)は、1950年代に日本の数学者谷山豊と志村五郎によって提唱された予想です。
これは、「すべての楕円曲線がモジュラー形式と対応する」という内容です。
モジュラー形式とは、特定の対称性を持つ複素関数の一種で、解析的にも代数的にも非常に重要な関数です。
谷山・志村予想が正しければ、フェルマーの最終定理の解が対応する楕円曲線も、モジュラー形式に変換できるはずです。
この予想を証明することで、フェルマーの最終定理の証明にたどり着ける可能性があると気付いたのが、ワイルズの画期的なアイデアでした。
モジュラー形式と楕円曲線の対応
ワイルズの証明のアイデアは、フェルマーの方程式が解を持つならば、それに対応する楕円曲線はモジュラー形式ではないことが分かっています。
つまり、フェルマーの方程式の解が存在するためには、谷山・志村予想が間違っている必要があります。
したがって、谷山・志村予想を証明できれば、フェルマーの方程式に解が存在しないことが示され、フェルマーの最終定理が証明されるという論理になります。
4.3. ワイルズの証明のステップ
ワイルズはこの証明を進めるために、次のステップを踏みました。
(1) リブレーター法 (lifting method)
ワイルズの証明は「リブレーター法(リフティング法)」というテクニックを駆使しています。これは、モジュラー形式に関連する特定の性質を持つ楕円曲線を「持ち上げて」解析する手法です。ここで使われた「ガロア表現」などの概念は非常に高度で、代数的な操作を通じて楕円曲線の構造を調べます。
このテクニックにより、フェルマーの方程式の仮想解が持つ楕円曲線が、モジュラー形式に対応するかどうかを判定することが可能になります。
(2) 谷山・志村予想の部分証明
ワイルズは最初に、特定の条件を満たす楕円曲線について、谷山・志村予想が正しいことを証明しました。これには、楕円曲線の性質に関するさまざまな数学的道具を使用し、高度な代数と解析の理論が駆使されました。
彼が証明できた部分的な結果を「半安定楕円曲線」と呼び、これによりフェルマーの方程式に関わる楕円曲線もモジュラー形式に対応することを示すことができました。
(3) 欠陥の修正
1993年に最初の証明を発表した際、チェックの過程で一つの技術的な欠陥が見つかりました。しかしワイルズは弟子のリチャード・テイラーと共に、この欠陥を修正するためにさらに理論を発展させ、1994年に完全な証明が完成しました。
<フェルマーの最終定理の証明方法>
1. 楕円曲線とフェルマーの方程式の関係を利用し、楕円曲線に関する性質からフェルマーの最終定理の証明を導き出す。
2. 谷山・志村予想を証明することで、フェルマーの方程式に解が存在しないことを示す。
3. 高度な代数的手法(リブレーター法やガロア表現など)を駆使して、フェルマーの最終定理を証明した。
これにより、フェルマーの最終定理は約350年にわたる未解決の難問から解き放たれ、ワイルズは数学界で不滅の名声を得ることになりました。この証明は、現代数学全体に多大な影響を与える偉業とされています。
「フェルマーの最終定理」のまとめ
今回は『フェルマーの最終定理』について、証明とその深い歴史を紹介しました。
長期間に渡り証明がされなかった最終定理には、多くの歴史的な物語がありました。
フェルマー自身も謎に満ちた魅力的な人物です。
このブログでは、数学の歴史的な定理や魅力的な話題についての記事を書いています。
ほかにも沢山の『魅力的な数学』があるので、読んでみてください。
「数学が得意な人は何をやっているの…?」 今回は『数学を得意にする方法』を紹介します! 数学が得意な人には共通点があるんです。 はな 実践して、数学を得意にしちゃいましょう! ① 途中式を省略せずに書く 数[…]
「計算ミスで点数を落とした…。」 今回は『数学で計算ミスをなくす方法』を紹介します! 計算ミスは「ある対処法」をすることで減らすことができます。 はな 計算ミスをなくして、点数をアップさせましょう! 計算ミスをする原因 […]